こんにちは。Nagiです。
当サイト(Nagi Rhythm)は現在1500記事以上投稿しており、年間100本以上映画を見る僕は過去に様々な映画レビュー記事をご紹介しました。
本日ご紹介する映画『悪い夏』は、染井為人の小説を原作としたクライムサスペンスです。
監督は「愛なのに」も務めた城定秀夫、脚本は向井康介。北村匠海と河合優実が主演し、閉鎖的で荒れた社会のなかで人間が堕ちていく様子を描いています。
この映画は原作だけでも十分面白いのですが、原作→映画という順番で触れると、物語の奥行きや皮膚感覚のような生々しさが何倍にも増します。
特に終盤、二人が逃げ込むあの“生活保護独特のボロボロでクソ狭いワンルーム”での展開は、小説では想像が及ばなかったほどの圧迫感と絶望がありました。
映画が加えた空気や温度、そして空間の“重さ”によって、この作品はひとつの完成を迎えると思います。
あらすじ
主人公は、市役所の生活福祉課で働く佐々木守(北村匠海)です。
誠実で気弱なタイプの彼は、同僚からの依頼で生活保護受給者・林野愛美(河合優実)の調査に関わります。そこで出会った愛美は、母親でありながら複雑な事情を抱え、裏社会と関わりを持っています。
善意から関わったはずの佐々木は、少しずつ彼女の事情に引き込まれていき、自分の職務を越えて加担し、やがて抜け出せない関係に堕ちていきます。
それは恋とも保護とも違う、名付けようのない共犯関係でした。
小説で描ききれなかった感覚を映画が補う
映像化で生まれた「空気の圧」
原作でも腐敗や暴力、共依存の構造は丁寧に描かれていましたが、映画ではそれが空間や音として立ち上がります。
たとえば終盤、ふたりが身を寄せるワンルームの場面では、狭さや暗さが画面いっぱいに広がり、息苦しさを感じるほどでした。
これは小説では全く想像できなかったようなものなので、言葉では伝えきれない閉塞感や、どこにも逃げられない状況が映像の力で強く伝わってきます。
河合優実の存在感が“物語の深度”そのもの
河合優実が演じる「林野愛美」には、説明できない魅力がありました。
セリフや行動では語られない感情が、目の奥や声のトーンからにじみ出てくるようで、彼女の演技が物語のすべてを牽引していたと言っても過言ではありません。
『不適切にもほどがある!』のようなポップな作品にも出ている河合さんですが、やはり本領が発揮されるのは『悪い夏』や『あんのこと』のような、重くて暗い世界を生き抜く役だと感じます。
なんなら「ルックバック」の藤野のように声優もできる。もっと評価されていい。

見てください。この圧巻するアングラな空気感。
どこか希望を匂わせながらも、最終的にはどこにも行き着けないような女。
そうしたキャラクターにリアリティを与えられるのは、今の日本映画界では河合優実しかいないと思いました。
社会的視点:仕事・制度・倫理のグラデーション
ここからネタバレ注意です。
この映画が静かに効いてくる理由のひとつに、職業観や制度へのまなざしがあります。
主人公・佐々木が生活保護を担当する公務員であるという点に注目すると、そこには社会的責任や制度の限界、そして人間の弱さが重なって見えてきます。
北村匠海さんの「おそらく人生限界」に感じるメンタルがいかれたシーンは圧倒的でした。
TOKIOや中居くんがとてもいい例
本作では「この人は善人だろう」と思える登場人物ほど、裏で何かしら誰かと繋がっていたり、思わぬ方向から嘘が飛んできたりします。
性欲が強い人から順番に消えていくのが世の中です。
信じたいと思っていた人間が信用できなかったり、味方だと思っていた相手が敵だったりする。そうした“見えない裏切りの連鎖”は、現実でもよくある話です。
まとめ
映画『悪い夏』は、小説だけでは決して辿り着けない領域まで物語を連れていってくれます。
原作で描かれていた人間の崩壊と矛盾に、映画は温度と湿度、そして圧迫感を与えました。
演技、演出、脚本、それぞれのレベルが高く、特に河合優実の存在は“女優”という言葉の意味を再定義するほど強烈でした。
すべてがうまくいかない、何ひとつ報われないように見える結末でさえ、どこか納得してしまう説得力がありました。
結論として、『悪い夏』は観る人を選ぶタイプの映画ですが、選ばれた側の人間にとっては、文句のつけどころがないくらい面白かったです。
できるなら映画館で、静かな地獄を全身で味わってほしい作品です。